大阪家庭裁判所 昭和39年(少イ)18号 判決 1964年7月07日
被告人 田原保子
主文
被告人を罰金五、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納できないときは、金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
被告人は大阪市大正通四丁目一八番地で小料理店「梅」を営んでいるものであるが、昭和三九年四月三日及び翌四日夜右店舗で、満一五歳未満の児童である中学生○城○子(昭和二四年六月一二日生)及び同○間○子(昭和二四年八月一五日生)を客に飲食の接待をすることを業務とする同店住込仲居として酒席を待らせたものである。
(証拠の標目)
一、○城○子、○間○子の司法巡査に対する各供述調書
一、○城○子の戸籍抄本、○間○子の住民票謄本
一、被告人の当公廷における供述、司法警察員に対する供述調書二通
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、被告人は児童を働かせて利益を挙げる所謂児童を喰い物にしようとしたのではなく、二少女の方から自発的に働かせてくれと申し込んできたものであるが、児童福祉第三四条第一項第五号はかかる場合を含まないと解すべきであり、又、二少女は満一五歳を超えて一七、八歳にみえるが、この場合には履歴書戸籍謄本を求める必要はなく雇傭後に不審の点があつた際にはじめてこれを取寄せれば足りるものというべく、本件ではこれらの取寄せは通常人として期待しえないものであるから、過失はないと主張する。
よつて判断するが、児童福祉法第三四条第一項第五号は一五歳未満の児童に業務として酒席に侍らせることはその人間形成の途上に好ましくない影響を及ぼす虞れがあるからこれをを禁じたものであつて、児童に無理にこれを強いた場合であると児童が自発的に申し込んできたのを許した場合であることを区別する必要はないものと解するを相当とする。又、客に酒を提供することを業とする小料理店営業者が従業員として低年齢者を雇傭しようとする場合には、児童福祉法の立法趣旨に基いて児童の心身をすこやかに育成されるように努めるべきであるから、氏名年齢住居経歴等を確かめるは勿論、疑わしい場合には親その他の親戚に連絡をとるとか履歴書米穀通帳戸籍謄本その他身分を証すべき書類の提出を求めるとかして、一五歳未満の少女でないことを確かめるべきであるのに、本件では少女等が一七歳であると答え即日から住込みで働きたいと云つているのをききながら、住所も明確に問わず直ちに安易に使用したものであつて、被告人に過失がないとは云えない。
(法律の適用)
被告人の判示行為は各児童福祉法第六〇条第二項第三項第三四条第一項第五号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条第二項によりその合算額以下において被告人を罰金五、〇〇〇円に処し、同法第一八条刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松沢博夫)